法人名義で貸すとどうなるか。社宅規定という制約
法人名義の申込が入ると、賃料の支払いは安定します。ただ、ふだんの契約とは条件が変わります。保証会社が使えない。定期借家では契約できないことがある。賃料は翌月分を前月末日までに振り込まれる。こうした制約はお部屋の良し悪しではなく、借主になる企業の社宅規定から来ています。先に知っておけば、申込を受けてから戸惑うことはありません。
法人名義の契約とは
法人名義の契約とは、お部屋に住むご本人ではなく、その勤務先の企業が借主となる賃貸借契約です。住まれるのは従業員の方で、賃料を支払うのは企業になります。社宅契約と呼ばれることもあります。
申込は入居者様から、やり取りは社宅代行会社と
法人名義で借りられるのは、上場企業やそれに準ずる規模の企業が中心です。そして当社が見てきた範囲では、その大半が社宅代行会社を使っています。
社宅代行会社とは
社宅代行会社とは、企業の社宅にかかわる手続きを引き受ける専門の会社です。契約書のやり取り、毎月の賃料の送金、退去時の精算などを、借主である企業の代わりに行います。
申込から当社に話が届くまでの経路は、こうなります。
入居者様が申込
↓
勤務先で社内申請
↓
社宅代行会社から仲介会社へ連絡
↓
仲介会社から当社へ連絡
申込そのものは入居者様が出されますが、そのあとは仲介会社を通じて社宅代行会社とやり取りすることになります。実際に住まれる方と、条件を決める相手が別になる——これが法人名義の契約でいちばん最初に効いてくる違いです。
保証会社が使えない。ここが最初の分かれ道
社宅代行会社が入る法人名義の契約では、ほぼ例外なく保証会社をご利用いただけません。企業が賃料を支払うので、企業の信用で足りるという考え方です。
理屈は分かるのですが、オーナー様にとっては敷金の話になります。当社では保証会社をご利用の場合、原状回復費用として1か月分が保証されます。敷金1か月分を最低条件としているので、保証分と合わせて最低でも2か月分を原状回復に充てられるという形です。
保証会社を使えない場合、この保証分がありません。敷金1か月分だけになり、原状回復に大きな費用がかかったときのリスクをオーナー様が負うことになります。
ですので当社では、保証会社をご利用いただけない法人名義のご契約では、敷金を1か月分積み増し、2か月分をお預かりしています。入居審査についても、保証会社の審査がない代わりに当社で行います。
お金の入り方そのものが変わる
賃料は口座引き落としではなく、翌月分を前月末日までに振り込む形になります。送金元が社宅代行会社になることもあります。
もうひとつ、企業の社宅規定には金額の上限が決められていることがあります。賃料はもちろん、敷金や礼金にも上限が設けられている場合があり、広さに制限がかかっていることもあります。
つまり、募集条件がその企業の枠に収まっていなければ、そもそも申込が届きません。法人名義を取り込みたいのであれば、賃料や敷金の設定を決める段階から考えておく話になります。
お部屋の条件で弾かれることがある
企業によっては、定期借家契約の物件とは契約できないと社宅規定で定めています。入居される方が了承すれば可とする企業もあるので、一律に不可というわけではありません。ただ、定期借家で募集すると法人名義の申込は入りにくくなります。
もうひとつ、海外にお住まいのオーナー様の物件は契約できないとする企業が多くあります。海外に居住されている家主様へ賃料を支払う場合、借主側に源泉徴収の手続きが生じるためです。一部の企業では契約できますが、断られる前提で考えておいたほうが安全です。
この源泉徴収の仕組みと、海外へ出られる前に済ませておく手続きは、別の記事にまとめています。
契約書と手続きも、いつもの形とは違う
押印から毎月の賃料送金まで、その大半を社宅代行会社が代行することがあります。加えて、次のようなことが起こります。
・社宅代行会社が借主として契約し、企業や入居者様へ転貸するかたちになる
・ごく一部の企業では、契約書が企業指定の書式になる
・覚書が追加される。内容は契約前にオーナー様へご確認いただきます
・反社会的勢力の排除のため、借主企業がオーナー様側を確認することがある
・経費の計算のため、固定資産税評価証明の提出を求められることがある
転貸借とは
転貸借とは、借主が借りたお部屋を、さらに別の方に貸すことです。社宅代行会社が借主として契約し、そこから企業や入居者様へ転貸する形をとると、契約書に書かれた借主名と、実際に住まれる方の勤務先名が一致しません。書類を見て不審に思われることがありますが、社宅契約では珍しくない形です。
固定資産税評価証明の提出は、法人名義であれば規模にかかわらず求められることがあります。
鍵をお渡しする日と、退去のときに起きること
社宅代行会社だけで決められないことがあります。借主である企業の承認が必要だったり、押印をもらう必要があったりして、契約書類が返ってくるまでに時間がかかります。
そうなると入居日に間に合いません。そのため、押印済みの契約書類の到着を待たず、契約時費用の入金確認をもって鍵をお渡しすることがあります。はじめてのオーナー様は不安に思われるところなので、事前にご説明します。
退去のときも、基本のやり取りは社宅代行会社とのあいだで行われます。社宅代行会社が判断できないことは企業の承認を待つことになり、規模が大きい企業ほど時間を要します。精算で折り合いがつかないときに動きが遅くなりやすいのは、この構造が理由です。
制約を並べましたが、法人名義はおすすめしています
正直に申し上げると、ここまで挙げた条件を知らずに申込を受けて、あとから驚かれるオーナー様が少なくありません。それがいちばんもったいない。条件そのものが不利益なのではなく、知らないまま進むことが不利益になります。
当社は都内の城南・湾岸エリアを中心に賃貸仲介も行っています。転勤や海外からの帰任で、法人名義でお部屋を探される方は少なくありません。とくに城南・湾岸エリアはこのニーズが高い地域です。
ですので、法人名義に柔軟に構えておいたほうが、結果として早く決まります。当社では条件を先にお伝えしたうえで、どこまで受けるかをオーナー様にご判断いただいています。
よくいただくご質問
- Q. 法人名義だと保証会社は使えないのですか?
- 社宅代行会社が入るご契約では、ほぼ使えません。企業の信用で足りるという考え方です。その場合、入居審査は当社で行います。
- Q. 敷金が2か月分になるのはなぜですか?
- 保証会社をご利用の場合、原状回復費用として1か月分が保証されます。敷金1か月分と合わせて、2か月分を原状回復に充てられます。保証会社を使えない法人名義のご契約ではこの保証分がないため、敷金を1か月分積み増して2か月分をお預かりしています。
- Q. 定期借家で募集すると、法人名義の申込は来なくなりますか?
- 一部の企業は社宅規定により定期借家契約を結べません。ただし入居される方が了承すれば可とする企業もあります。募集の幅は狭くなりますが、申込が来なくなるわけではありません。
- Q. 契約書の借主名と、住む方の勤務先名が違います。問題はありませんか?
- 社宅代行会社が借主として契約し、そこから企業や入居者様へ転貸しているケースです。契約の形として問題はありませんが、どなたが実際に住まれるのかは契約前に確認します。
※本記事は2026年10月時点の情報にもとづいています。社宅規定の内容は企業によって異なり、ここで挙げた条件がすべての法人名義のご契約に当てはまるわけではありません。税金にかかわるご判断については、税理士等の専門家にご相談ください。
この記事を書いた人

渡邉 圭太
エルシーズ株式会社 代表取締役
1984年生まれ。芝浦工業大学卒業後、リゾートトラスト株式会社にて会員権営業に従事し、入社2年目に年間優秀社員賞を受賞。その後、不動産業界で売買仲介・賃貸仲介・賃貸管理の実務を幅広く経験し、2019年にエルシーズ株式会社を設立。「正直に、真っ当に」を掲げ、売却活動の透明化に取り組んでいる。
公益社団法人 全日本不動産協会 東京都本部 渋谷支部 役員/公益社団法人 不動産保証協会 東京都本部 渋谷支部 監事
エルシーズ株式会社(国土交通大臣(1)10190号)
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